煙突から陽炎のような煙が見えた

煙突から陽炎のような煙が見えた

今から1年以上前の話だ。
文章がうまくないので箇条形式で書いてみる。

とあるバイク系ミーティングで初めて彼女と会った。
ミーティング解散間際に後ろから女性の声、どうやら俺を呼んでる様子。
振り返ると、本当に俺に呼びかけていた。

「何です?」と俺。

「あのー」と女性。
ちょっと恥ずかしそうに俯き加減に。

「何か落としました?」と俺。

「あのースミマセン。け、携帯の番号教えてくれませんか?」

まだまだ続きます

後から考えると、この発言は彼女にとって一世一代の大勝負だっただろう。

ちょっとビックリしたものの、妻子がいるわけでもない俺は軽い気持ちで彼女に電話番号とアドレスを教えた。
2、3日後、早速その女性からメールが入った。

「暇な日ありますか?」

「今週末なら暇だけど」

実は女性側から積極的にアプローチされるなんて今まで無かった。
少し不信感を抱いていた。

それから数日たち、約束の週末がやってきた。
待ち合わせの場所。
いかにも女性が好みそうな可愛い250CCバイクで彼女はやってきた。

「どうしたの?」と俺。

「暇なので・暇なので・・」

恥ずかしそうにそればかり言う彼女。

「とりあえずどうするの?」と俺。

「山かどこか景色のいいところ行きたい」と彼女。

彼女は女性でありながら運転は上手なほうだった。
ちゃんと俺の後ろについてくる。
ついてくるけど時々いなくなる。
俺はスピードを調節すると、彼女は追いついてきた。
少し笑っているように見えた。
そして、俺が良く通うお気に入りの場所へと案内した。
小高い丘の上、周りに建物は無く、人気も無い。
周りは林が囲い、眼下には小さくなった町並みに細い川が流れている。
川をたどっていくと海が見える。
彼女は俺の横に立った。
少し肌寒い季節。
彼女の体温を感じた。
バイクに乗る彼女。
一生懸命俺についてこようとする彼女。
追いついた時に俺に見せた彼女の笑顔。
いつしか、彼女に対する不信感は影を潜め、逆に少しずつではあるが愛おしさにも似た感情が芽生え初めていた。

このとき彼女の目を始めて見つめた。
どちらかというと人付き合いが苦手で、人と目を合わせることが苦手だった俺。

「どうしたの?」と彼女。

「イヤ、何でもないっす」とできるだけ平常心を装う俺。

「あの、そろそろ引き返そうか?」

本当はもっとこうしていたいのに、その気持ちとは違った言葉が出てくる。
なんで、いつも俺はこうなんだ!?

その後も数回このようなことが続いていたが、そのほとんどが彼女からの誘いだった。
そして、初めて手をつないだのも彼女の方からだった。
バイクに乗り、少し世間からズレていて、半ば投げやりになっていた俺。
自分の生活スタイルを変えることを恐れていたはずの俺の心を、いとも簡単に引き込んでしまった彼女という女性。
本気で好きになってしまうかもしれないと戸惑いを覚えた頃。

「次会うときは、一緒にお酒でも飲もうよ。家行っていい?」

彼女は美人と言えるような感じじゃない。
そう、犬に例えるなら柴犬といったところか。
感情に裏表のない、誠実でまじめで、快活で、そしていつも主人の行動や仕草を好奇心のある眼差しで見つめているような。
そんな感じだ。
俺の話に笑い、そして驚く。
一緒にいて気持ちよいと感じ始めた頃には、彼女の目を見て話している自分がいた。

その次の週末、教えてあった俺の住所を頼りに彼女はバイクでやってきた。
手にはワインと缶ビール。

「明日は休みだよね?飲みまくりましょうか。ハハ」

家に入り、テレビをつけて、酒を飲み始めた。
飲んでる間色々な話をした。
俺が北海道に行った話、バイクに乗り始めた頃の話。
彼女の生い立ちや、家族構成、実はごく近所に住んでいること。
俺は笑い、そして彼女も笑った。
こんな酒飲みは何時以来だろう?

そして、不可解だった彼女との最初に出会った頃の話も聞けた。
彼女の歳は27歳。
俺より学年では一つ上であることと、結婚に焦っているらしいこと。
つまりはそういうことだったのか。
彼女自身が”一世一代の大勝負”に出たらしい理由もようやく理解することができた。

彼女は酒に強いらしく、俺は結構つらくなってきた。
そして、最後には彼女を忘れて、気持ちよく寝てしまった。
冬から出しっぱなしになっているコタツは心地よく、いつの間にか頭の下には折りたたんだ座布団が敷いてあった。

どれくらい寝てしまったのだろうか。
夢の中で子供の頃の自分が母親に頭をなでられている夢を見ていた。
人に頭をなでられる。
成人してからこんなことあっただろうか。
ふと、急に目が冷め開けると、となりの誰かが俺の髪を触っていた。
酔い潰れて彼女のことなど忘れていた俺。
ビックリして体を横に向けると彼女と向き合うような体勢になってしまった。

「気持ちよさそうに寝ていたね」

彼女が笑っていた。
酔っている俺。
目の前に口に出したことは無いけども、好きになった人がいる。
俺の中で急に何かがこみ上げてきた。

「好きだ!!」

叫んだ俺は、彼女の顔数センチまで近づいた。
彼女の匂いがした。
何の匂いと例えればよいか分からないけど、とにかくものすごく良い匂いだ。
瞬間。
俺は彼女の唇に口を押し付けた。

「しまった!俺はなんと言うことをしたんだ!!」と、思うか思わない間にコタツの中で彼女の足が俺の足に絡んできた。
彼女は俺の行動を受け入れ、口を少し、遠慮気味に、力を抜いてくれた。

酒に酔っていたためか、まるで俺ではないかのように積極的になっていた。
彼女の唇、舌、歯を舐めしだいた。
彼女の吐息は次第に大きく荒くなってくる。
彼女の腕が俺の首に巻きつく。
半ば彼女がぶら下がるような体勢で俺は彼女の口元から少し顔を離す。
彼女の耳の下を舐め、髪の匂いと少しだけ汗の匂い。
耳を軽く噛んだ。

左手を彼女の胸に、右手は腹から内股へと滑らせていく。
彼女の荒いジーパンの感触を確かめた後。
Tシャツの内側へと手を進めていった。
彼女は少し海老ぞったかと思うと、俺の顔を見上げて「フフ」と小さく笑う。
彼女の腹から入った右手はやがてブラジャーへとたどり着く。
ホックを外し、Tシャツを少し捲り上げようとすると、彼女は起き上がり、自ら脱いだ。
俺もシャツを脱ぎ、お互い上半身裸のまま力一杯抱き締めた。
暖かかった。

人の肌の温もりを素肌で感じること。
こんな心地よさと安堵感を感じたのは何時頃以来だろう。
俺は彼女を体の中に取り込みたいと思った。
力一杯抱き締める。
抱き締めて抱き締めて抱き締めまくる。

彼女にもう一度キスをした。
そして、それを合図にお互いの手がベルトとボタンへと伸びる。
ズボンを膝あたりまで下げると、俺はゆっくり彼女を横たえた。
そしてまたキスをした。

俺の右手は彼女の下着へ。
そして、少しきついゴム下へと手を差し入れた。
湿気を感じた。
彼女は足で俺の手を挟み込む。
そして緩んだ。

俺は差し入れた手の力をそっと抜き、揉み解す。
彼女は俺の首にぶら下がり、首元に吸い付くように口を当てている。
彼女の体は汗ばみ、石鹸の匂いとちょっとだけすっぱい匂い。
生き物の匂いを感じた。
彼女の下着をゆっくり下ろすと、また足を挟み込む。

実はここに来て、この先を俺なんかがどうこうすることに少なからず不安を感じていた。
本当にいいのだろうか。

「いいの?このまま」

俺が聞いた。
彼女は下から俺を見上げながら、「フーン、ハハ」とため息が混じったような笑ったような声で頷く。

そして、ゆっくり俺は俺自身を彼女の中へ差し入れた。
彼女は初めてではなかったけれど、むしろそんなことはどうでも良かった。
こんなに良い娘を他の男が放っておく訳はないし、それがかえって俺自身の安心へと繋がった。

彼女の息は荒く、時折俺を見つめた。
俺はゆっくり体を動かす。
彼女の手は俺の肘あたりを握っていた。
俺は彼女の首元に口を近づけ、吸った。
彼女の湿った髪が俺の鼻先をかすめる。

いい匂いがした。
そしてその匂いは俺を更に奮い立たせた。
動きは更に速くなる。
彼女の手はいつの間にか俺の手首へ、そして手をつなぎたくなっているようだ。

”ごぶさた”が続いていた俺は早くも限界が近づいてきた。
彼女はその気配を感じたかどうか。
手をぎゅっとつかまれた。
そして、俺と目が合うと同時に「いいよ」と小さな声で言った。

俺達の行為が始まってから、俺は「しまった」と感じていた。
会ってまだ日も浅い。
正式に付き合ってくれとの申し入れもしていない。
ただ、俺が一方的に好きになっているだけの女性に対して軽はずみな行為をしていること。

瞬間、俺は俺自身を彼女の体内へと放出していた。

「この人と生きていきたい」

漠然とではあるが俺の決心だった。

あっと言う間の出来事だった。
我に返った俺は、心から彼女に謝った。
謝って許してもらえることではないけれど。
謝るしかなかった。
動揺する俺を彼女はじっと見ていた。

「責任とってくれる?」

彼女はちょっと笑いながらこういった。
本当に落ち込んでいる俺。

「もう遅いから寝ようよ」

彼女は言った。
俺は彼女の分の布団を用意して、自分のベッドに潜り込む。
そして、明かりを消した。

「失礼しまーす」

唐突に明るい声で彼女は言ったかと思うと、俺のベッドに入り込んできた。
暗闇の中での突然の声と、彼女の膝が俺の腹に直撃したのにはビックリしたし、痛かった。
ベッドの中で、彼女は俺の手を握ってきた。

「◯◯君のだったら別に良いんだよ」

「え?」と聞き返す暇も無く「オヤスミ-」と彼女。

それから、彼女と何度も会い、そしてセックスをした。
この頃にはお互いが空気のような存在というか、会って、話して、笑って、セックスをする。
まるで自分と話をしているかのように、気を使わない相方というか連れ合いというか。

このまま俺は彼女を好きで、彼女は俺のそばにずっと居てくれると思っていたし、それを疑わなかった。
その日は、彼女と夕飯を食べに行き、そしてその後暇なので100円ショップに行くことになった。
色々なものに目移りし、何を買おうかとウロウロしていると、向こう側の食器コーナーから彼女の声がした。

「今度一緒に飲むときには、このグラス使わない?」

100円ショップではあまり見かけない凝ったデザインのコップ。
お酒が好きな彼女の提案に、俺は笑ってペアでこのグラスを買った。

次の日、いつものように朝彼女にメールした。

「おはよう、今日は休みだけど、◯◯君は仕事頑張ってね」と返信がかえってきた。

そして昼休みになった俺は、また彼女にメールを送った。
だが、返信は無い。

夜、家に帰ってからメールを送る。
返信が無い。
いつもは1時間以内には必ず彼女からの返信があった。
不信に思った。
彼女に何かあったのではないだろうか?嫌な予感がした。

2日後、彼女からは全く連絡が無い。
たまらず電話をかけるが携帯の電源が入っていなかった。
自宅の電話番号にかけてみる。
一人の女性が電話にでた。

「あの、夜分すみません。□□さんはいらっしゃいますか」・・。

女性はちょっと困ったような感じで少し黙っていた。

女性「あの、どういったご関係の方でしょうか?」

俺「友人なのですが」

彼女は俺の事や名前は全く家族に話していなかったらしい。

女性「あのー、すみません、、、、、ご友人の方・・・□□は亡くなったんです」

俺「え?」

女は俺の事や名前は全く家族に話していなかったらしい。
この女性は何を言っているんだろう?電話は切れていた。
俺は、前に聞いた彼女の住所を思い出した。
家のドアを叩き開け飛び出す。
俺の愛車はいつもの場所にあった。
エンジンを掛ける。
いつもは念入りに暖機運転をしていたが、今日はしなかった。

彼女の家の前に差し掛かると、玄関先には通夜の準備らしい物が並んでいた。
俺は素通りしか出来なかった。
事の真意を知りたい気持ちを抑えながらひたすら我慢した。

「何が起こったんだ?」
「なんで?」

葬儀業者の職員が玄関先に看板を立てかけようとしている。
□□の名前が書かれてあった。
何があったのか、たまたま近所の人が道路上に居たので聞いた。

彼女はバイクで交通事故に合い、亡くなった。
俺はどうやって家に帰ったのか覚えていない。
バイクのキーはいつものように机の上にあった。
そして、その横には先日二人で買ったグラスが置いてある。

夜が明けた。
俺は何か「行かなくちゃ」という気持ちになった。
だが、ご両親は俺のことを知らない。
知ったら俺と□□はバイク友達だったと言うことが知れてしまう。
ご両親の気持ちを考えれば、とても行けない。

俺は彼女の家を出た霊柩車を追いかけた。
彼女と一緒にツーリングに行った同じバイク。
斎場の隠れた場所にバイクを置き、影から見ていた。
煙突から陽炎のような煙が見えた。

心のそこから好きだった女性。
彼女の髪、柔らかい唇、俺の噛んだ耳、笑った笑顔、彼女の匂い、声。
もう、二度と、この世には存在しない。
俺の目から涙がこぼれた。

彼女の好きだったもの。

カワサキのエストレヤ
お気に入りのTシャツ
いつも着ていた赤いジャケット
10年飼っている猫のクロ
レモン
バーム
ワイン
両親
兄弟
俺が案内した景色。